「アトピーがかゆくてつらい」「ちゃんと薬を塗っているのになかなか治らない」そんな風にお悩みではありませんか?アトピー性皮膚炎はアレルギーの一種で、患者数は年々増えています。
アトピー性皮膚炎の治療はステロイド外用薬が中心ですが、注射タイプの治療薬があることをご存じでしょうか?今回は、アトピー性皮膚炎の治療薬の一つである「デュピクセント」について、効果や使い方、注意点などを紹介します。
聖マリアンナ医科大学医学部付属病院皮膚科、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院皮膚科にて勤務したのち、医療法人社団奏愛会 おおふな皮膚科など皮膚科クリニックにて研鑽を重ね当クリニックにて勤務。
デュピクセントとは?アトピー性皮膚炎に効く注射薬
まずは、デュピクセントがどのような薬なのか解説します。
デュピクセントの適応について
デュピクセントは、どなたにでもすぐに使える薬というわけではありません。医師が以下の条件に当てはまる方の中から、症状に合わせてデュピクセントの使用を考えます。
- ・ストロングクラス以上のステロイド外用薬やカルシニューリン阻害外用剤や保湿剤を使った治療で効果が不十分の方
- ・15歳以上の方
まずは、ステロイド外用薬や保湿といった基本の治療を6ヶ月以上行います。そのうえで、治療効果が十分に得られていない場合には、デュピクセントを選択肢として検討します。主に、重度のアトピー性皮膚炎の方に使用が推奨されており、軽度の方には一般的にステロイド外用薬を中心とした治療を行います。
2023年7月現在、15歳以上でなくてはアトピー性皮膚炎の治療にデュピクセントを使用することはできません。ただし、今後は子どもにも使用できるようになる可能性があります。
デュピクセントの効果と作用する仕組み
デュピクセントがアトピー性皮膚炎に効果を発揮するメカニズムを紹介します。
アトピー性皮膚炎では、肌のバリア機能が低下して炎症が起き、かゆみや湿疹(ブツブツ)が出るというのが特徴です。かゆみには、「サイトカイン」という物質が関わっています。
アトピー性皮膚炎の皮膚の内側では、さまざまな物質がなだれのように次々とつくられ、症状を悪化させています。
引っかき傷や肌の乾燥による亀裂などから、皮膚の内側へアレルゲン(アレルギーの原因物質)が入り込むのがスタートです。アレルゲンは、ほこりやダニ、花粉、汗などさまざまあります。
アレルゲンの侵入を感知すると、たくさんのリンパ球が集まってきて、「アレルゲンが入ってきたぞ!」と体中に情報や命令を発信します。
この時に使われるのが「サイトカイン」というたんぱく質です。さまざまな種類があり、中でも「インターロイキン(IL)-4」「IL-13」の2つが、炎症の初期に密接に関わっています。
IL-4は、「IgE抗体」をつくる命令を出すサイトカインです。IgE抗体は、マスト細胞に働きかけてヒスタミンやロイコトリエンを分泌させます。これらの物質は、かゆみや炎症の原因となります。
さらにIL-4とIL-13は、皮膚に直接的な影響も及ぼします。IL-4/13によってペリオスチンという物質がつくられ、皮膚に蓄積します。ペリオスチンは皮膚の細胞同士の接着に関わる物質と結合し、炎症やバリア機能の低下を起こします。これにより、アレルゲンなどによる刺激がなくても皮膚の炎症・荒れが持続するようになってしまうのです。
デュピクセントは、この2つのサイトカイン(IL-4/13)が働かないよう、ピンポイントでブロックする薬です。IL-4/13が関わるさまざまな反応の大元を制御するため、アトピー性皮膚炎の改善効果がとても高く、重度のアトピー性皮膚炎の方に特に推奨されます。
デュピクセントの投与方法
デュピクセントは、2週間に1回の間隔で投与する注射タイプの薬です。1回目だけ2本、2回目以降は1本ずつ注射を続けていきます。
メーカーの運営する投与日をお知らせするメールを送ってくれるサービスがありますので、投与日を忘れそうな方は登録してみてください。
太ももやおなかに注射してください。誰かに注射をサポートしてもらえる場合は、二の腕でもかまいません。同じ箇所にばかり注射せず、いろいろな部位をローテーションさせながら投与します。けがをしている部位や、アトピー性皮膚炎の症状が重い部位への投与は避けましょう。
デュピクセント投与に注意が必要な方や副作用
デュピクセントは、安全性が高く、副作用も少ない薬です。一部、投与に注意が必要な場合もあります。
・投与できない方
デュピクセントを使用してアレルギー反応があった方
(血圧低下、息苦しさ、めまい、発熱など)
・投与に注意が必要な方
妊婦または妊娠の可能性のある方、授乳中の方、高齢の方、感染症にかかっている方などは投与に注意が必要です。当てはまる状態の方は、医師に申し出てください。生ワクチン(麻疹・風疹・おたふく・水ぼうそう等)の接種予定のある方は事前にお伝えください。
※インフルエンザワクチン、新型コロナウイルスワクチンは問題ありません。
・代表的な副作用
デュピクセントはほとんど副作用がなく、安全性の高い薬です。
注射部位の赤みや腫れ、痛みといったものが主で、発疹や関節痛、目やまぶたの炎症症状(赤み、腫れ、かゆみ、感染など)などもわずかに報告されています。
自己注射について
デュピクセントは、ご自身で注射していただくことのできる薬です。
<自己注射のメリット>
大きなメリットは、通院の間隔をあけられることです。
デュピクセントは、2週間に1回注射する薬です。ご自身で注射できるようにつくられているため、注射のたびに通院する必要がありません。状態にもよりますが、通院間隔を2〜3ヶ月に1回などにすることができます。
<自己注射の方法>
デュピクセント(ペン型)は、簡単な操作で注射できるようにつくられています。操作方法にご不安のある方は、初回の投与をスタッフ立ち会いのもと行うこともできますので、ご相談ください。
- ①緑色のキャップをはずします。
- ②黄色の部分(針カバー)を、注射する部位に押し当てます。黄色の部分が見えなくなり、カチッと音が鳴ります。
- ③そのまま押し当てていると、確認窓が白から黄色へ変わります。確認窓の全体が黄色になってから、5秒間かぞえます。
- ④皮膚から本体を離します。
当院でのアトピー性皮膚炎に対する治療法
当院では、日本で使用できるアトピー性皮膚炎治療薬の多くを取り扱っています。アトピー性皮膚炎の治療は年々進歩しており、今ではほとんどの方が日常生活に支障のないレベルにまで症状を落ち着かせることができるようになりました。根気強く治療を続けていきましょう。
アトピー性皮膚炎の治療について、簡単に紹介します。
ステロイド外用薬
アトピー性皮膚炎治療の中心的な薬です。さまざまな強さ(ランク)のステロイド外用薬があるため、部位や症状の程度に合わせて調整できます。見た目には治ったと思っても、指示の通りに続けていただくことが大切です。
タクロリムス軟膏
ステロイド外用薬と同様に炎症を抑える薬で、中等度くらいまでのアトピー性皮膚炎に使用できます。ステロイド外用薬の副作用である「皮膚萎縮、血管拡張」などが心配な方にも安心です。塗布すると少しピリピリするのが気になるかもしれません。
デュピクセント(注射薬)
湿疹やかゆみの原因をつくり出す物質(IL-4/13)が分泌されないようブロックする薬です。ステロイド外用薬などの塗り薬と併用し、2週間に1回のペースで注射します。副作用はさほど多くありません。高い効果が期待できますので、症状の重いアトピー性皮膚炎の方に推奨されています。
抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤
かゆみ症状に対し、必要に応じて抗ヒスタミン薬や抗アレルギー剤を使用します。
かゆみのせいで皮膚を掻きむしり、傷がついてしまうと、細菌などが入り込み感染症を起こすかもしれません。かゆみは我慢せず、薬で症状を抑えましょう。
エキシマライト(紫外線療法)
皮膚に紫外線を当てることで、過剰な免疫反応を抑えるという治療法です。
エキシマライトについてはこちらの記事で詳しく解説していますので、参考にしてみてください。
デュピクセント
今回紹介した「デュピクセント」を処方する場合、初回の2本分で37,106円(3割負担の場合)のご負担になります。これに加えて、初診料または再診料、ステロイド外用薬などのお薬代もかかります。
2回目以降は、1本分で18,553円(3割負担の場合)です。
導入から2ヶ月目には、在宅自己注射管理料として1,950円(650点)が加算されます。また、導入から2ヶ月目、4ヶ月目に導入初期加算として1,740円(580点)が加算されます。 そのほか、初診料、再診料、皮膚特定疾患指導管理料が1ヶ月ごとに300円(100点)加算されることになっています。
続けるとかなりの費用がかかってしまうと心配されるかもしれませんが、高額療養費制度の対象となる可能性がありますので、ご確認ください。高額療養費制度の対象外の場合でも、年間の医療費の支払額が10万円以上であれば医療費控除の対象になりますので、手続きを忘れずに行ってください。
デュピクセントついてよくあるQA
デュピクセントについて、よくある疑問にお答えします。
Q.デュピクセントの投与は痛みがありますか?
デュピクセントは、投与中にわずかに痛みを感じられる方が多いです。 冷蔵庫で保管する薬ですが、しっかりと室温に戻してから投与することで痛みをやわらげることができます。注射の45分以上前には、冷蔵庫から出しておきましょう。
Q.デュピクセントはずっと続ける必要があるのですか?
デュピクセントをいつまで続けるのかについては、明確な指標はありません。 炎症やかゆみなどの改善が得られるまで継続します。症状が改善し、よい皮膚の状態を維持できているようであれば、半年を目安にデュピクセントを中断して経過をみてもよいとされています。いつまで続けるかについては、個別に状態をみて判断します。